その1:シュレーディンガーの穴 その1|Let’s Go ポシャリーマン! (poshari-man.com)
花を知って美しく
私が絡みついた相手は男だったのか、女だったのか。あの夜からというもの、私はそればかり考えていた。
花を知って美しく
なにやら意味ありげな事の書かれた彼女のLINEプロフィールを眺めては、その言葉の真意を考察した。よく分からないが、どことなく怪しくもとれる。何かからの引用だろうか、そう思ってGoogleで検索にかけるも、それらしい物は出てこない。”クリニック名 オネエ”と検索にかけても同様だった。このままでは確かめようがない。事の真相は己の足で確かめに行かねばならないようだった。暫定的私の試算では、彼女は0.2女性だった。その0.2の女性を抱きたい、そんな欲求も相まり、私は彼女を再度食事へと誘った。
ちなみにこの5/30~6/9の旅行とは、前述のドイツSEXツアーだ。これについても後日投稿したいと思う。
再会
ドイツから帰国して数日後、私は彼女と新宿で落ち合うこととなった。平日の仕事終わり後で、前回と同じく22時頃の待ち合わせとなった。天気はあいにくの雨。濡れるのを避けるため、新宿の地下街の店で食事をすることとした。
待ち合わせ場所で待っていると、久々の彼女が近づいてくる。遠くから見てとれる彼女の身長の高さに、心のざわつきを覚える。都会の生活でスレたような、少し疲れた雰囲気に以前は色気を感じていた。が、今こうしてみると少し怖い。スレたお姉さんなのか、仕事に疲れたおじさんなのか、、
挨拶もそこそこに、足早に店へと向かう。地下街の店は閉まるのが早いのだ。ほどよい暗さでこじんまりとした落ち着きある店。テーブル席へと案内され、2人対面して座った。適当に注文した料理に箸をのばしつつ、ビールを片手に互いの近況報告をした。
この前ドイツ行ったんだけどさ、全裸で日光浴しちゃった(興奮)脱毛後は施術部位の日焼けを避けるように言われてたのにね笑
そう言ってドイツ土産のチョコレートを手渡した。
ありがとう、ドイツで何してたの?
、、裸で日光浴できる所があるんだよー
ヌーディストビーチ?
おーそれそれ!周りの女性もみんな裸でさー、すごかった
へえ、すごい楽しんだみたいねえ
2人で話し込んでいると早々に閉店の時間となった。もちろん予定のうちだ。
また家で飲も
いいよ
すんなり受け入れられた。会計を済ませ、外のお手洗いへ行く。緊張と興奮を胸に放尿を済ませて外に出るや、入り口にいた彼女が両手で私の顔を包み、唇を重ねた。今度はタクシーじゃない。不特定多数の目がある公共の場だ。と言っても周囲に人影は無かった。人は不安な時、自分に都合の良い情報ばかりを受け入れてしまうという。頭の片隅には、彼女が男性である可能性がちらついていた。それでも彼女の中にある0.2の女性に集中し、一時的な女1.0を作り上げた。結果彼女による濃厚な接吻は、そのうち人が通るかもしれないスリルも相まって、最高にエロ気持ちよいものとなった。
暴落
前回同様コンビニで買い物をし、タクシーにて彼女の家へと向かう。求めていたわけではないが、今回の車内はおとなしかった。何事もなく家に到着し、部屋に上がる。キッチンには相変わらず空の豆乳パックが置かれていた。
(イソフラボンって女性ホルモンと性質が似てるって聞いたことあるな、、)
無意識にいらぬ詮索をしてしまう。以前と変わらぬムーディーな部屋で、普通に缶チューハイを空けていく。
尿意を催したのでトイレを借りる。ここの家は洗濯機がトイレと同じ空間にある。トイレを済ますと、下着を吊るしたまま折り畳んだ角ハンガーが目に留まった。すかさずつぶさに下着を見ていく。どれもこれもセクシーな女性ものだった。ふと視線を下へと向けると、洗濯機の蓋が開け放たれていた。奥には衣服が放り込まれ、その中にいくつか下着があるのが見て取れた。上から確認する限り、そこに男性用の下着は見当たらなかった。
(よし!)
今冷静に考えるとおかしいのだが、この時の私はものすごい安堵感に包まれていた。決定的な証拠が出なかっただけで、彼女は依然として女0.2なのだ。にも関わらず、全ては自分の思い過ごしだったようだ、そう結論付け、私はトイレをあとにした。人は不安な時、自分に都合のいい情報に目を向けるだけでなく、自分に都合のいい解釈をしてしまうようだ。
安心した私は、また飽きもせずに彼女とカニカマプレイをしていた。それほどまでに、私は彼女の唇に魅了されていたのだ。動物的に、互いに貪るような口づけを交わす。そのまま床に押し倒し、服を脱がそうとすると、彼女は急に立ち上がった。訳も分からず見上げていると、そのまま隣の部屋へと消えて行ってしまった。とりあえずベッドに横になってくつろいでいると、部屋着姿になった彼女が戻ってきた。
(なんで?)
いつもならば流してしまうような些細な疑念も、この時は膨らみやすかった。
(なんで今着替えたんだ?勝負下着に変えたのか?でもなんで普通の部屋着なんだ?なぜだ?なぜだ?なぜだ?)
いくら考えても分からなかった。膨らんだ疑念をいったん胸の奥にしまい、彼女とベッドで横になった。疑心暗鬼の中でのちちくりあい。私は盛り上がりきれないでいた。それでも事は進み、いよいよパンドラの箱もとい彼女のズボンへと手をかける。
(?)
なぜか彼女は腰を引き、私の手と距離を取ってしまう。何度か触れようとしても同じだった。
(、、、焦らしてるのか?、、、いや、でもやはり、、、)
もう気持ちが折れてた。互いに言葉もない。自分には真実と向き合う覚悟ができていなかったのだ。
(今日は、、、もういいか、、、)
面倒なことは後回し、自分の悪い癖が出た。事態が進展することなく、この日の晩もノーセックスで2人眠りについたのだった。
翌朝、この時も私は仕事があったため早くに身支度を整える。そうこうしているうちに彼女も目を覚まし、そのままおぼつかない足取りで隣の部屋へと消えていった。
じゃん!
ベッドで昨夜買ったお茶を飲んでいると、彼女が下着姿で戻ってきた。
(うっ!)
この時の私は、横山光輝三国志ならば確実に目の周囲に影が落ちていた。下着姿で戻ってきた彼女は両足をぴったりと揃え、イギリス近衛兵よろしく直立不動でいたのだ。このポージングに私は覚えがあった。小学生の時分、風呂場でムスコを足と足の間に挟み隠し、女の子ごっこをした事があったのだ。なによりも、不自然に直立不動でいるのが決定的だった。彼女の中の女性はもはや0.1、一気に半減の大暴落である。
わぁあ!
戸惑いを押し殺し、歓喜の声を絞り出す。それくらいのリアクションしか取れなかった。私の反応を見て満足したのか、彼女はすぐにまた扉の影へと消えていった。
家を出る時、やはり彼女からは濃厚な接吻のプレゼントがあった。いくら疑念が渦巻いていようとも、その技術だけは確かなものだった。結局何の成果も得られぬまま、私はまた彼女に見送られ、仕事へと向かうのだった。
告白
それからというもの、定期的にクリニックに通ってる事もあり、彼女とは連絡を取り続けていた。しかし彼女から退職の報告が来たのを境に、ぱたりと音信が途絶えてしまった。それでもさほど気にも留めず、私は私で次なる出会いを求め、マッチングアプリでの活動に励んでいた。そうしたある日、久々に彼女の方からLINEが来た。
※以降はLINEのデータが残っていないため写真なしとなります。
連絡遅くなってごめーーん
実は今奄美に帰ってて、当分戻らないと思う
そうなんだ!どのくらいいる予定なの?
即座に返信したものの、既読もつくことなくまた連絡は途絶えてしまった。
さらに1月ほど経った頃だろうか、再び急に彼女からLINEが来た。
ポシャくん、ごめんなさい。私言わなきゃいけないことがあるの。私は本当は男の子なんです。でも今タイにいて、これから女の子になって帰ります。それでも私を抱いてくれますか?
(あぁ、ついに来たか)
もはや驚きはなかった。それよりも、すぐにトーク画面を開いてしまった己の不用心さを悔いた。もうあちらの画面には既読マークがついてしまっている。
(やっぱ男だったか、、どうしよう、なんて返そう、、かなり思い切ってのカミングアウトだろうしすぐに返さなきゃ、、考えろ、考えろ、考えろ、、でも女の子になって帰る?、、穴を造設するにしても、それは女の子になるってことになるのか?、、いや今そんなことはどうでもいいか、、彼女の精神は純度100%の女性なんだ、中身においてはその辺の女性達と何ら変わらない、1人の乙女なんだ、、そんな1人の女性の覚悟の告白には真摯に向き合わなければ、、正直生涯の伴侶としての候補にはならないよなあ、、でも穴はできるのか、、人工の穴、、ちょっとだけ興味あるなあ、、どんな感じなんだ?、、、、、、なるほど、、切除した腸を膣に見立てるのか、、粘液が出続けるため常に濡れていると、、なるほど、、作ってしばらくは匂いがきついと、、うううん、、、それはきつい、、、)
トーク画面を開いたまま思案していたら、すぐにまた彼女からLINEが来た。
そうだよね、無理だよね、騙してごめんなさい!今までありがとね、ばいばい!
(また既読つけちゃったあ!しかもちょっとやけくそになってるう!)
こうなってはもう仕方ない、時間をかけて返事をした。
久しぶり。思い切ってのカミングアウトありがとう。正直なところ、途中からひょっとしたら?とは思っていました。それでもなお、自分がりんかさんの魅力に惹かれていたのも事実です。ただやっぱり、この先は無いのかなというのが自分の本音です、ごめんなさい。今まですてきな時間をありがとう。
こちらこそありがとうだよ。うん、これからも元気でね!
それを最後に、以後彼女と連絡を取ることは無かった。おそらく今後も取ることは無いだろう。ポシャリーマンは依然としてポシャリーマンのままだった。ただ彼女の口づけの感触だけが、強烈な印象として頭に焼き付いていた。
不確か
彼女のいなくなったあとも、私はクリニックへと通い続けた。受付の綺麗なお姉さんも、タイトな制服を着た施術の看護師さんも、誰もかれもその中に男と女が混在して見えてしまった。考えてもみれば、男女の外見的な違いなど本来ほとんどない。ただ胸の膨らみとメイクに女性らしさを感じているだけで、脳内フォトショでノーメイクに加工するとみんな男と変わらなくなる。
女性らしさなんてものはあくまでらしさに過ぎず、それぞれの要素から100%の確証が得られるわけではない。どれだけ高い男性あるいは女性らしさが算出されたところで、真実は下着のベールを剥がなければ分からないのだ。衣服を纏って生活をする現代社会において、我々は存外、性において互いに不確かなものとして存在しているのかもしれない。誰しもが、彼女のパンツを下ろしたらビックリ箱よろしく膨大した肉棒が目の前をかすめる可能性を持ち合わせているのだ。
ときおり更新される彼女のLINEの写真を見ては、そんな考えに耽るのだった。